大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪家庭裁判所 平成元年(少ハ)1号 決定

少年 J・M(昭47.12.20生)

主文

1  本件戻し収容申請を却下する。

2  道路交通法違反保護事件については、少年を保護処分に付さない。

理由

一  戻収容申請事件について

1  本件戻し収容申請の理由の要旨

(1)  少年は大阪家庭裁判所昭和63年少第4264号傷害致死保護事件により昭和63年5月20日初等少年院送致(一般短期処遇勧告付)の決定を受け、播磨少年院に収容され、同年10月7日同少年院を仮退院し、大阪保護観察所の保護観察に付された者であるが、

〈1〉 同年12月下旬ころ傷害致死事件共犯者であるAの居住するマンションにおいて同人らと共に前後数回にわたってシンナーを吸引し、また、平成元年2月23日には同事件共犯者であるBらと共にシンナー吸引した。

〈2〉 同年3月23日、第1種原動機付自転車を無免許運転した。

〈3〉 同月27日、Aら4名と共に飲食店において相客といさかいを起こした際、Aが喧嘩を始めたのに加勢をし、女性に対し足蹴りする暴行を加えた。

〈4〉 同月23日以降、父のもとから家出をし、保護観察を行うものに対してその所在を明らかにしなかった。

(2)  上記〈1〉の事実は一般遵守事項第2号「善行を保持すること」及び第3号の「犯罪性のある者又は素行不良の者と交際しないこと」及び特別遵守事項第4号「シンナー等の吸引や夜遊びなどをせず不良仲間とつき合わないこと」に、上記〈2〉の事実は一般遵守事項第2号に、上記〈3〉の事実は一般遵守事項第2号、第3号、特別遵守事項第3号「人命の尊いことをよく考え決して暴力を振るわないこと」に、また上記〈4〉の事実は一般遵守事項第4号「住居を転じ又は長期の旅行をするときは予め保護観察を行う者の許可を求めること」にそれぞれ違反していることが明らかであること、少年が仮退院後2か月を経過するころから不良交遊を復活させ、生活態度が乱れてきたのに対し、保護観察を直接担当する保護観察官が指導したにもかかわらず、少年が生活を改めることのないこと、また保護者である父は監護に対する自信を半ば失っている状態にあること等を総合判断すると少年の非行性は相当進んでおり、保護観察によって少年の更生をはかることは極めて困難であり、少年を少年院に戻して再度強力な矯正教育を施すことが相当であるというものである。

2  当裁判所の判断

(1)  一件記録によると、申請の理由の要旨(1)の〈1〉ないし〈4〉の事実を認めることができ、それらの事実が前記遵守事項に違反していることになる。

(2)  平成元年4月19日本件申請がなされ、観護措置のうえ調査審判したところ、少年には矯正教育の結果未だ不十分とはいえ幾分の感情統制力の改善がみられること、仮退院後4か月位の間水道パイプ製造業の工員として精勤してきたこと、少年は家族への親和、信頼が強いこと、父親が少年の就労先として父の勤務先の下請会社の社長に事情を説明して住み込みでの配管工事見習いの仕事を用意したこと等を考慮して当裁判所は同年5月10日在宅試験観察に付した。

(3)  その経過をみると、少年は、試験観察直後及び同年8月の2回シンナー吸引をすることはあったが、前記就労先での勤務状況は概ね良好であり、不良交遊、家出、夜遊び等の生活の崩れは相当程度改善され、また、当庁家庭裁判所調査官のもとへの出頭及び保護観察所への出頭を欠かさず続けている。

(4)  そうすると、当初の遵守事項違反の状態は解消されるようになっており、また保護観察を担当している保護観察官は少年の行状が比較的安定していると判断しており、引き続き保護観察が継続されてゆくことを考慮すると現時点においては社会内処遇を続けることが相当であり、戻し収容の必要性はなくなったものと判断する。

二  道路交通法違反事件について

1  非行事実

少年は、公安委員会の運転免許を受けないで、平成元年3月23日午後9時25分ころ、大阪市東成区○○×丁目×番×号付近道路において、第1種原動機付自転車を運転したものである。

2  適用法条

道路交通法64条、118条1項1号

3  処遇理由

本件非行事実は、戻し収容申請事件の遵守事項違反の事実の一部であり、別件保護観察中の少年について更に処分する必要性はないので本件につき処分しない。

三  よって、本件戻し収容申請は理由がないので却下し、道路交通法違反事件については別件保護中につき処分しないこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 駒井雅之)

〔参考〕戻し収容申請書〈省略〉

別紙1

保護観察の経過及び成績の推移

1 少年は、昭和63年10月7日播磨少年院を仮退院し、大阪保護観察所に出頭し、所定の手続を経て、その保護観察下に入った。

2 大阪保護観察所は、少年について担当保護司を指名せず、主任官(保護観察官)を担当者に指名して、直接処遇させることにした。

3 少年は、即日、指定帰住地の父のもとに帰住し、昭和63年10月11日から、叔父J・Yと共に、大阪市東成区所在の「○○製作所」(水道パイプ製造業)に工員として就労し、これに精励し、傍ら高校受験を目指す等、一時、生活安定への努力がみられた。

4 ところが、昭和63年12月19日本件共犯者であるAが、大阪市生野区○○×-×-×「○○」××号室に単独で居住することになったのを契機に、少年は、しばしばA方を訪ねるようになり、同所において、大阪保護観察所が保護観察中のCら数名の者と共に、シンナー吸引を繰り返した。

5 その後、少年は、平成元年2月4日まで、前記「○○製作所」において就労を続け、無断外泊することもなかったものの、同月5日から同月末ころまでに、4、5日間の外泊を3回程度繰り返した。

これに対し、主任官及び少年の父は、少年に、これら素行の良くない者らとの交際を絶つよう等求めたが、少年の態度は改善されなかった。

6 少年は、平成元年2月23日午後7時ころ大阪市生野区○○×-×-×「○△」××号室において、本件共犯であるB、Dと共に、シンナーを吸引したことにより、大阪府○○警察署に補導された。

7 平成元年2月末ころから同年3月23日までの間、前記Cの叔父のもとで、就労(当初は、住み込みであったが、同月13日からは父のもとから通勤)していた。

8 平成元年3月3日、大阪保護観察所は、少年の出頭を求め、主任官が、少年に前記の行状等について反省文を書かせ、厳しく指導した。

9 平成元年3月23日大阪市東成区○○×-×-×先路上において、原動機付自転車の後部荷台に前記Aを乗せ、これを無免許で運転し、大阪府○△警察署に検挙された。

10 即日、少年は父の出迎えによって同署から釈放されたが、その帰途、父に「友達に会いに行く。」と言って別れたまま、その所在をくらました。

11 平成元年3月23日以後、それまでしばらく途絶えていた前記Aとの交遊が復活し、同人方において前記C、D、及び本人の女友達であるE子らと共に居住していた。

12 平成元年3月27日、少年は、Aら4名と共に、東大阪市(以下、不詳)○○商店街所在の飲食店「○○」において、相客の男女といさかいを起こした際、Aが喧嘩を始めたため、少年はこれに如勢し、女性1名に対し足蹴りする等の暴行を加えた。

13 少年は、平成元年3月29日指定の出頭指示に応じなかった。

14 平成元年4月9日、少年は一旦帰宅したものの、その直後、父に対して、「東大阪市の○○という友人のところに居る。塗装屋で働く。」と申し向けまま、再び家出した。

15 平成元年4月10日大阪保護観察所は、少年を同所に引致した。

16 同日午後7時20分当委員会が、少年に関して、戻し収容の申請を審理するため、審理開始の決定をしたことにより、少年は、即日、大阪少年護別所に留置された。

17 少年は、平成元年1月、本件被害者の菩提寺である大阪市生野区所在の○○寺に再三墓参し、また被害者の命日である同年4月5日にも墓参した。

これは、大阪保護観察所が、被害者遺族の感情が未だ極めて悪く、少年自身が被害者遺族宅に直接赴くことは、適当ではないと判断し、主任官が少年に指示したことによるものである。

別紙2 申請の理由

少年は、当委員会第1部の決定により、昭和63年10月7日播磨少年院からの仮退院を許され、表記住居の父のもとに帰住し、以来、大阪保護観察所の保護観察を受けているものである。

少年は、仮退院に際して、犯罪者予防更生法第34条第2項に定める事項(以下「一般遵守事項」という。)及び同法第31条第3項に基づき当委員会第1部が定めた事項(以下「特別遵守事項」という。)の遵守を誓約したものであるが、平成元年4月10日付けで大阪保護観察所長から戻し収容の申出でがなされたので、関係書類に基づき審査するに、下記1記載のとおり、遵守事項違反の事実が認められ、かつ、下記2記載のとおり、既に、保護観察による処遇をもってしては、その改善更生を図ることは極めて困難な状況に至っているものと認められるので、本申請を行うものである。

1 遵守事項違反の事実

少年は、

(1) 昭和63年12月下旬ころから、大阪市生野区○○×-×-×「○○」××号室に居住するA方において、大阪保護観察所において保護観察中の者であるA及びCを含む数名の者と共に、前後数回にわたってシンナーを吸引し、また、平成元年2月23日午後7時ころ、大阪市生野区○○×-×-×「○△」××号室において、本件共犯であるB、Dと共に、シンナーを吸引し、この件については、大阪府○○警察署に補導され、

(2) 平成元年3月23日午後9時25分ころ、大阪市東成区○○×-×-×先路上において、原動機付自転車(車両番号・大阪市○○う××××)の後部荷台に前記Aを乗せ、これを無免許で運転し、

(3) 平成元年3月27日、少年は、Aら4名と共に、東大阪市(以下、不詳)○○商店街所在の飲食店「○○」において、相客の男女といさかいを起こした際、Aが喧嘩を始めたため、少年はこれに加勢し、女性1名に対し足蹴りする等の暴行を加え、

(4) 平成元年3月23日午後11時以降、居住すべき住居である表記父のもとから家出し、以来、保護観察を行う者に対して、その所在を明らかにしなかった

ものである。

上記(1)の事実は、一般遵守事項第2号「善行を保持すること。」及び第3号「犯罪性のある者又は素行不良の者と交際しないこと。」並びに特別遵守事項第4号「シンナー等の吸引や夜遊びなどをせず、不良仲間とつき合わないこと。」に、上記(2)の事実は、一般遵守事項第2号に、上記(3)の事実は、一般遵守事項第2号及び第3号並びに特別遵守事項第3号「人命の尊いことをよく考え、決して暴力を振るわないこと。」に、また上記(4)の事実は、一般遵守事項第4号「住居を転じ、又は長期の旅行をするときは、あらかじめ、保護観察を行う者の許可を求めること。」に、それぞれ違反していることが明らかである。

2 戻し収容を必要とする理由

(1) 少年は、少年院に収容されることとなった本件非行事実の重大性を十分認識し、仮退院後においては、一層、慎重に行動し、改善更生に努めるべき立場にあるにもかかわらず、その反省心は乏しく、仮退院後2か月を経過する頃から、本件共犯者らとの交友を再開したのを始め、しだいにシンナー吸引、夜遊び、徒食等、を繰り返し、その生活態度は、少年院収容前と基本的に変化が認められない。

(2) これに対し、大阪保護観察所は、主任官(保護観察官)に少年の処遇を直接担当させることで処遇強化を図り、主任官は、少年と類回に面接する等によって指導し、また父も、ともども、少年の自覚を促したにもかかわらず、少年は自己の問題を直視しようとせず、その内省心は極めて乏しい。

(3) 少年は、こうした生活を続けるうちに、前記遵守事項違反の事実(3)の行為に及んだものであり、その行為は本件非行事実に著しく類似したものであって、少年が感情の抑制力に欠け、粗暴行為に出がちであり、また罪障感に乏しい傾向を窺わせるものであり、容易に軽視しがたいものがある。

(4) 少年の保護者である父も、現状では、監護に対する自信、意欲を半ば失うに至っており、その監護に大きな期特はできない。

以上から、総合判断するに、現状では、少年の非行性は相当進んでいると言うべきであって、保護観察処遇によって、少年の改善更生を図ることは、極めて困難と判断せざるを得ず、この際、少年を少年院に戻し、再度強力な矯正教育を施すことが相当であると認められる。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例